降水システム:観測・データ解析と数値モデルシミュレーション

大気中に熱を放出する積雲や運動量を運ぶ山岳波(重力波)は,それ自体おもしろい研究対象ですし,それらは気候を決定する重要な要因ともなっています。数値モデルを主な手段としていますが,レーダー・気象衛星・ゾンデ・地上観測などのデータを使った実証的な研究も大事にしています。

1998年はGAME(GEWEX Asian Monsoon Experiment)の強化観測年でした。そのときに観測したタイ各地のドップラーレーダーのレーダーには多くの興味深い現象が捉えられています。1999年〜2001年の夏にもそれぞれ2週間の観測を行いました。それぞれの年には98年とは違った特徴が見られます。しばらくはこれらのデータ解析や数値モデルによる再現を通じてアジア大陸のモンスーンについて考えることが主なテーマの一つになりそうです。
レーダー観測の際に撮った雲の写真のうちいくつかは,ここにあります。

降水の日変化は,実はあまりわかっていない現象です。海上での降水日変化の原因も不確かですが,陸上での降水日変化も単純ではありません。たとえば夏に限っても,必ずしも頭上で雲が発達して雨が降るわけではなく,大きな山脈の東側では山でできた降水システムが定期的に東に進むことにより日変化がもたらされるようです。このような陸上での降水日変化の支配要因を解明することもおもしろいでしょう。
タイでの降水日変化を2次元数値モデルで再現したアニメーションをQuick Time (977KB)avi (455KB)で置いてあります。等値線は温位,オレンジ色は凝結物質を示します。インドシナ半島内陸部では,このようなスコールラインの定期的な発生と移動が日変化をもたらす大きな要因だと考えています。
また,同じインドシナ半島でも,周辺部では大分変わった降水特性があることが最近になって認識され始めました。2003年からインドシナ半島の広範囲に雨量計を展開し始めていて,今後はそれらのデータから見えてくる降水の実態の解析・解明を始める予定です。

数値モデルの開発

私のもう一つの課題は,新たな大気モデルを構築することです。私自身も既にいくつかモデルを開発したり利用したりしていますし,また,高度に洗練されたモデルは,日本の気象庁をはじめアメリカにもヨーロッパにもあり,その内のいくつかは自由に利用することができます。しかし,これから研究していく人たちがそれらを使うユーザーに留まっているだけだと,新たなモデルを創りだす力は育ちません。自分たちの手で独創的なモデルを開発し使用していくと,実はその過程で現実の大気現象を注意深く観察し理解しようとしている自分に気がつくはずです。
個人の資質はそれぞれ違い,モデル開発は誰にでも勧められるテーマではありませんが,これからの気象学になくてはならないモデルという道具,それも今後10年は使ってもらえるようなものを共同研究という形で作り出していくことは,とてもやり甲斐のあるテーマと思って取り組んでいます。

上記以外に,学生・院生の人たちと一緒に行った,または行っている課題や,最近気になっているテーマ群

論文リスト